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【PODCAST】2024-9-27 OA 第57回 放れ駒の絵(はなれこまのえ) 引土(ひきつち)

番組名:ラジオ散歩★舞鶴ウォーカー
カテゴリ:ポッドキャスト, 舞鶴の歴史・民話
更新日:2024年09月27日

西舞鶴の愛宕山(あたごやま)のふもとにはたくさんのお寺があり、その中にはひときわ歴史のある円隆寺(えんりゅうじ)があります。
円隆寺は奈良時代に行基(ぎょうき)と言う偉いお坊さんが建てたもので、七堂伽藍(しちどうがらん)と70余りの僧坊(そうぼう)があり隆盛を極めました。
三体本尊(さんたいほんぞん)など重要文化財も多く、西舞鶴地区屈指の文化財の宝庫といわれております。
本堂は享保(きょうほ)17年、西暦で言う1732年の大火で類焼しましたが、この本堂には放れ駒の伝説がありました。

昔、この本堂には巨瀬金岡(こせのかなおか)の筆による馬の絵がありました。
そこに描かれている馬は、まるで生きているように見えたそうです。
ある年、あちこちの田畑が馬に荒らされるようになりました。遠くは白鳥峠(しらとりとうげ)まで、被害がありました。
村人の間では、毎日、馬の話でもちきりです。
村①「まったく困ったことだわい、あっちこっちで馬に田畑を荒らされて…、どうしてくれよう。」
村②「ほんまやで、うちでせっかく育てた大根や水菜がさんざん荒らされてしまったわい。」
村①「今夜こそはとっ捕まえてこらしめてやらなくては気がすまん。」
夜の間に荒らされるので、村人たちは寝ずに交代で番をすることになりました。
ところが、番を始めたころから馬が現れなくなりました。
村②「毎晩々々交代で見張っとるのに、ちっとも見つからんのう。」
村①「そうだのう、それに最近出て来ないのは、どこぞよそへ行ってしまったのではないかのう。」
村②「今夜もどうやろか?、ほとほと疲れたのでちょいとぐらい横になっても出てくりゃせんだろう。」
村①「ほんに、今夜も現れないのなら、骨折り損のくたびれ儲けじゃけ、ちょいとくらい休んでも大丈夫だろう。」
ところが、今夜は出てこないだろうと安心して仮眠していると、蹄の音がして遠のいていきます。あわてて起きて畑を見ると作物が食い荒らされているのです。
そして西といわず、東も、南も、馬の姿どころか、去っていく馬の影さえ見たものはありませんでした。
村②「あの馬はどうしたものか、見張りをしているところには現れずに、いない所に現れてばかり、とんでもない知恵者じゃ。」
村①「ほんに、誰も荒らしている姿を見ることなく、気が付いたらかけ去る音しか聞こえんほどじゃあ。」
村②「人間の気持ちが分かるのか、裏をかかれてばかりで、その上素早くて神業としか思えん、全くどこの馬じゃろうか。」
村人たちは毎日のように集まって論議をするも、らちがあきませんでした。
その中に馬鹿正直で控えめな、信心深い男がおりました。

その男は会合では、ほとんど隅のほうに座っていましたが、話の中に馬の話が出るたびに、いつも参るお寺の本尊様の後ろの壁画が気になって仕方がありませんでした。
不思議なことに男は馬の絵にひどく心が引かれていたのです。
男はいつも、朝早くにお寺に参ってはこの絵を見ました。
ある朝、馬の身体に水玉がうかび、脚に泥のようなものがついているのに気が付きました。
村①「馬が出るようになってずいぶん経つが、荒らされる一方で我々には何も出来んのかのう。」
男は絵のことを村の人々に話しました。
男「えっと、えっと…、わしが思うに、寺の本堂の絵の馬が、朝早く行くと毛は濡れとるし、馬の脚のところの土がついとるし、気になっとるんじゃ。」
村②「なんじゃとたわけたことを…、みんな気が立っているのだ、馬鹿なたわごとを言うんじゃあないぞ。」
男の話は村人には唐突でだれも相手にしてくれませんでした。
男はあきらめることができず、思いあぐね、和尚さんにこの馬の絵を描いた人の名を尋ねました。
東舞鶴の大浦半島の方の赤野に住む金岡(かなおか)という人でした。
男は意を決してその人を訪ね、寺で見てきたことを話しました。
金岡「なんと!わしの描いた馬の身体が濡れていたり、脚に土がついていたりすると言うのか、馬が夜な夜な絵から抜け出して田畑を荒らしとるかも知れぬと言うのじゃな。よう知らせてくれた、これはわしの責任じゃ、何とかしよう。」
男「聞いてもらってよかったです。誰も相手にしてくれなくて困っとりました。これでわしも肩の荷が下りました。あとはよろしくお願いします。」
男の話を聞いた金岡は、寺に参ると絵の馬に手綱を描き、つなぎ駒にかえました。
それからは馬が田畑を荒らすことがなくなったといいます。


2024.9.16 おつぎ

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