むかしむかしのお話です。
舞鶴市の北側には大浦半島があり、その半島の西側にある村を西大浦村といいました。
ある日、西大浦の村に住む三人の猟師が鉄砲を抱えて山に入っていきました。
二人の猟師は年配の熟練で、若い猟師に猟を教えるために連れて行くのです。
猟師①「いいか、熊はしぶといから、玉を2発はぶち込まないと仕留められねえからな。」
若い猟師「へえ、しっかり見させてもらいます。」
猟師たちの目当ては西大浦に多く生息している熊でした。
熊が居そうなところを探しながら三人の猟師は山の中を歩いておりましたら、年配の猟師が山の中にある熊穴を見つけました。
猟師①「この穴の中には熊が居るはずじゃ。」
猟師②「そうだ、きっといるにちがいねえ。」
猟師①「いいか、食べ物を探しに出てくるところを狙って、ズドンだぞ。」
三人の猟師は熊が出てくるのを身をひそめて待っておりました。
猟師の予想通り、穴の中には二頭の熊がおりました。
オス熊は穴の外からの嫌な感じの匂いに気づいて穴の奥から外を見てみると、三人の猟師が熊穴に向かって鉄砲を構えているではありませんか。
オス熊はこれは何とかしなければ、と思い、メス熊に言いました。
雄熊「いいか、おれがおとりとなってあばれるから、身重のお前は大事にここにじっとしてろ。」
雌熊「あんた、恐ろしいわ」
雄熊「心配するな、きっとなんとかするからな。」
そうメス熊に言い聞かせると、オス熊は穴からもんどりうって出て行きました。
三人のうちの二人の熟練の猟師は落ち着いてしっかり狙いを定めると、熊に向かって「ズドン」「ズドン」大きなオス熊は撃ち殺されてしまいました。
猟師①「大きな熊じゃ、これは金になる!」
猟師②「やったぜ、これで苦労した甲斐があると言うものだ。」
二人の猟師は大喜びでした。
猟師①「おおい!その穴の中にはもう熊はいねえか?」
熟練の猟師は抜け目なく若い猟師に声を掛けます。
穴のそばで成り行きを見守っていた若い猟師は、言われて恐る恐る穴をのぞき込みました。
そして穴の奥で隠れるようにしているメス熊を見つけましたが、おびえていて、どうやらお腹が膨れていて身ごもっている様子です。
猟師③「いいや、何にもおらんど。」
不びんに思った若い猟師は、そういってブルブルふるえているメス熊を見逃がしてやりました。
猟師たちは意気揚々と大きなオス熊を村に持ち帰りました。
翌年の冬、また三人の猟師は雪が降る山に入り、熊が居そうなところを探しておりましたが、吹雪に見舞われ遭難してしまいました。
三人の猟師達が山に入ったまま帰ってこなかったので、吹雪がやむのを待って村から捜索隊が山の中に入っていきました。
二人の猟師が谷底に倒れているのを見つけましたが、すでに息絶えておりました。
しかし若い猟師は見当たらず、家族はあきらめて他の猟師と合わせて葬式も済ませました。
雪が解けだしたころ、死んだと思われていた若い猟師が村に戻ってきました。
村人「おお!生きとったのか!いったいどこでどげんしとったんじゃ?」
若い猟師が言うには、
若い猟師「雪山で遭難して、もう駄目だと思ったが、気が付くと暗い穴の中にいて、毛むくじゃらなものと一緒に囲まれていて寒くはなかったんじゃ。メス熊とその子どもやったのかのう?」
村人「そりゃたまげたのう。でも、なんも飲み食いするもんが無くて困ったろう。」
若い猟師「水は吹き込んだ雪があった。お腹が空いていたが、目の前によい香りがして、舐めると甘い蜜じゃった。」
村人「それはもしかして、熊の手に滲み込んだ蜂蜜だったのじゃあなかろうかのう。」
熊は蜂蜜が大好物で、食べた蜂蜜が手の隙間に残っていたのかも知れませんね。
そんな事があって心優しい若い猟師は猟をやめ、畑仕事をしたり蜂を飼って蜂蜜を集め、助けてくれた熊のことを思い出しながら、山を見てのんびりと暮らす事にしたそうです。
2024.11.18 おつぎ