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【PODCAST】2023-2-24 OA 第38回 「洞窟の蛇」 #丹後富士 #建部山 #喜多

番組名:ラジオ散歩★舞鶴ウォーカー
更新日:2023年02月24日

喜多にある建部(たてべやま)には建部城がありました。
その昔、一色(いっしき)氏が城主として治めていた室町時代のころのことです。
建部の中腹に屏風岩(びょうぶいわ)と呼ばれる、そそりたった岩がありました。
その下の方には、深い洞窟がありました。
 ある日のこと村の若者が、樒(しきみ)を取るために建部に登って来ました。
しきみは仏教でお供えに使われるため、お寺などからよい値で買ってもらえるのです。
しばらくしきみを取り、かごに入れていましたが、ふと屏風岩あたりに蛇が三匹ばかりいるのが見えました。
若者「なんと珍しいことだろう、蛇があんなにじゃれ合っているなんて。」
それぞれ紅に黒に白と鼠色の縞模様で、しばらくじゃれ合う様子に、若者はもの珍しく見とれていましたが、やがて蛇は身をくねらして屏風岩の方へ消えていきました。
若者は再びしきみを取ってかごに入れていましたが、疲れてきたので、体を起こしぐっと背のびをしました。
 すると、屏風岩の方に娘が一人立って、こちらをうかがっているのが見えました。
若者「なんと美しい娘だ、紅の着物を着ていて、このあたりでは見たこともないぞ。」
若者は夢ではないかと目をこすってみましたが、娘は消えることもなくそこにたたずんでいました。
そこで、おそるおそる娘の方に登って行きました。
すると、娘はにっこりとほほ笑んだと思ったら、洞窟の方へ向かって行きました。
若者は娘に
娘「おいで、おいで。」
と、呼ばれた気がして急いで後を追い洞窟の入口まで来ると、中を覗いてみましたが、ただ暗くて人のいる気配は在りませんでした。
若者「何だ、夢でも見たのか誰もおらぬ。ただ真っ暗で気味が悪いばかりだぞ。」
若者はそう言うと引き返してしきみを入れたかごを担ぐとさっさと村へ帰りました。
まだ嫁のいない若者は、思い返してみて美しい娘が忘れられず、その晩は食事ものどを通りませんでした。
気になった若者はあくる日、村の人に昨日の出来事を話しました。
村人「あんな気味の悪い洞窟に人など住んでいるはずがない。」
村人「きっと狸にでも化かされたのじゃあないのかい。」
そう言って誰も若者の話を信じてくれませんでした。
若者はもう一度確かめたい、と思っていましたが、畑仕事や村作業に忙しくてなかなか建部へ行くことができずにいて、ただ美しい娘のことを思い返すだけの日々でした。
そのうち村人の間で屏風岩の洞窟に誰かいるとの噂が立ちました。
村人「それは大男らしいぞ。」
村人「いやいや美しい娘だということだ。」
村人「でも、白髪のおじいさんと言う人もいるそうだ。」
そんなうわさ話を聞くと若者はますます気になり夜もろくに眠れなくなりました。
ある日若者は居ても立ってもいられなくなり、とうとう畑仕事のあと、西の空が夕焼けになったころ、しきみを取った所まで行きました。
するとそこには前のように三匹の蛇がたわむれておりました。
蛇はしばらくすると洞窟の方へ行くので、若者はすぐに後を追いかけて草を分けいって行くと、前にも見た美しい娘が洞窟の中へ入って行くのがかすかに見えました。
娘「こっちよ、こっち。」
若者はまた娘に呼ばれた気がして、洞窟に着くと恐る恐る中をのぞきました。すると、暗い中には蛍の光のような明かりがともっているように見えました。
若者「なんだろうあの光は、私を誘っているように見える。」
蛇の瞳の明かりと気付かない若者は、今度は勇気を振り起こして娘の後を追うように中へ入りました。
明かりは誘うようにどんどん奥の方に入って行くので、若者は後を追って進みました。
ぽとりぽとりと岩から滴が落ち、足元はぴちゃぴちゃと水音がします。
若者「うやあ!冷たい。なかなか追いつけないぞ。」
若者は寒気を感じながらも、そろりそろりと明かりを追って進みました。
後を振り返るとかすかに入口の明かりが見えます。
若者「どうやらずいぶんと入り込んだようだぞ、引き返すのなら今のうちだ…。」
それでも明かりを追って若者は更に奥に進みました。
ふと気が付けば、若者は周りを蛇に囲まれているのでした。

しばらくして、村人たちは姿の消えた若者のことで噂話をしています。
村人「わしは若者がに登って行くところを見かけたが、どこへ行ったものか見当もつかん。」
村人「わしがしきみを取りに行ったとき、洞窟のところで大きな蛇が二匹、体をくねらしながら引っ付いとるのを見て、怖くなってとんで逃げたわい。」
村人「わしも柴刈りに行ったとき見たぞ、黒い縞と、紅い縞じゃったわい。」
村人「そんなら若者は蛇にでも取りつかれたんじゃろうか?恐ろしい洞窟じゃわい。」
村人はそんな恐ろしげな噂話しをして、中に入ると蛇になるのではないかと恐れをなしその後は洞窟に近付く者はなかったそうです。

 

エピソード

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