作品提供：おつぎさん

田辺城を建てる時のお話です。
お城の石垣に使うたくさんの石を運ぶために、田辺城の領地から人夫を出すようにと、各村にお触れが出され、上漆原の村にも１６人の人夫が割り当てられました。
　さっそく村では寄り合いが開かれましたが、その頃の上漆原の村には家数が少なく、１６人の人夫を出す事はとうていできませんでした。
　村の人たちは庄屋さんを囲んであれやこれやと相談したものの、よい案が浮かびません。
村人「庄屋さんよ、こんな小さな村に、１６人も割り当てられても、そんなに男はおらんで、年寄りや子供は出せんしのう。」
庄屋「それは分かっておるのだが。もし出さなかったら、年貢を増やされるそうじゃ、それも困るじゃろぅ？」
村人「それではおまんまがなくなって、わしら生きてゆけん、どうしたもんかいのぅ？」
庄屋「それに畑仕事も今からが忙しいときだしな…。」
村人「そうだそうだ、畑もほっといたら、ペンペン草しか生えなくて、なーんも採れなく　　なっていまう。」
庄屋さんも村の人たちもどうして良いのかわからず、みな黙りこくってしまいました。
　その時、寄り合いの隅で何やら相談していた２人が声をあげました。
長左衛門「庄屋さんよ、人が少なくても、割り当てられた仕事さえやればよいことだ。」
円性「わしら２人で片付けるから、まかせちゃってくれ、文句は言わせんわい。」
岩尾ノ長左衛門（いわおのちょうざえもん）と長野円性（ながのえんしょう）という２人の男がそう言いました。
　この２人はそろいもそろった無類の力持ちで、十貫匁（かんめ）と言いますから、今の約37.5キロもの重い石でも、まるで手マリのようにポイポイと放り投げる力があったといいます。
ですが、庄屋さんも心配して言います。
庄屋「お前たち２人だけで、大丈夫か？ダメだったら年貢を増やされてえらいことになるぞ。」
円性「そんなの、ちゃら～へっちゃら～、てなもんよ」
長左衛門「ここは、わしらの出番だ、わしらが行かねば誰が行く。」
円性「よっしゃー、どーんとこい」
　２人は村の割り当ての１６人分の仕事をするため、朝早くから出て城の石垣の作業をしている普請場（ふしんば）に向かいました。
到着すると普請場では人数調べが行われました。
よその村からは割り当て通りの人数が揃っているのに上漆原からは２人だけです。
役人「おい、お前ら上漆原のものか、１６人出せと言っておるのに、お前ら２人だけとは　　どういうことだ」
円性「わしら２人でも、１６人分の仕事をしちゃるわい。」
長左衛門「割り当てられた人数分の仕事はするから文句は言わせないぞ！」
と２人は言い放ちました。
役人「それなに言うのなら確かめてやる。この大きな大きな石を、前には１６人、後には　　２人で担いで城まで運べ。
力自慢の１６人がかかるところを、たったの２人でするなんて出来るものかい。」
大きく重たい石を運ぶには、石を括り付けた太くて長い横木を前と後ろにそれぞれ１６人づつが担いで運ぶことにしています。
　前には上漆原以外の村から来たよりすぐりの１６人に対し、後には長左衛門と円性の２人だけではどうなることでしょう。
ところがいざ歩き出すと、前の１６人はふらふら、のろのろ。
円性「おらっ！先棒（さきぼう）がしっかりせんと、お堀にでも転げ落ちるやないか。」
長左衛門「大勢かかって何をふらふらしておる、しっかり担げよ！」
力の余った２人は、そんなことにいらいらします。
円性「そらそら、力を抜いて楽をしちょる者はおらんか、お前ら朝飯喰ったんだろうな！」
長左衛門「朝ごはんを食べないとしっかりと働けないぞ！」
そう言うと二人はかついでいた横木をゆらゆらと振り動かしました。
円性「そーら、ワッショイ、ワッショイ！みこしじゃないけど、ワッショイ、ワッショイ」
前の１６人は情けないことに、ぐらりぐらぐらとし始め、肩に食い込む横木にたまらずバタバタと倒れる始末。
やっと最初の石を運び終えたら、直ぐに元の場所に戻って２個目の石を運びます。
長左衛門「さっさとせんと、日が暮れてしまうぞ、そんな事ではいつまでも片付かんぞ！」
円性「そんなへっぴり腰は、豚でもせんぞ、トンでもない話しだ、ワッハッハ…。」
後ろの円性と長左衛門は再び横木をゆらゆら揺らし、前の１６人はたまらずバタバタ。
３つ目の石を運び終えた時、その様子に気付いて驚いた役人はこれでは他の者が弱ってしまうと思い。
役人「上漆原の人夫。そのほうたちの仕事はあっぱれである。もう帰ってよいぞ。」
と、早々にお役目ごめんとして帰らせたそうです。

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